『カラマーゾフの兄弟4』ドストエフスキー(亀山郁夫 訳) 光文社文庫 本書は全部で5巻までありますが、本日までに読んだ第4巻についての感想を書きます。
以下、全編のあらすじと第4巻で印象に残った場面を書き綴ります。
★全編あらすじ ロシアの一地方都市における、カラマーゾフ三兄弟及びその父親の周りで起こる事件を題材とした物語。単純な事件の羅列にとどまらず、世界・神・家族など深いテーマが物語全体を支配し、各登場人物の心情の吐露が詳細に描かれる。
★第4巻第12編6.検事による論告。性格論 長男ドミートリーの父親フョードル殺し裁判で、検事イッポリートが検察側の弁論を述べていく場面。
この場面は、法廷小説として素晴らしい傑作といえると思います。弁護人イッポリートはこの弁論に彼自身のすべてを注ぎます。
ここで注目したいのは、イッポリートがロシア世相を語り、そこからドミートリーの有罪説を解いていく部分です。
P509:検事イッポリート-当事件について
「陪審員のみなさん。本件は、ロシア全土にとどろきわたっています。しかし、この事件の何を驚くことがあるでしょうか。何を恐れることがあるでしょうか。わたしたちにとってはとくにそう思われます。」
P512:検事イッポリート-若者の自殺について
「いいですか、みなさん。わが国の若者がどのように自殺しているか、考えていただきたいのです。『その先に何があるのか』などという、ハムレット的な疑問はこれっぽっちもありません。そのような問いは頭に浮かびもしないのです。」
P515:検事イッポリート-父親フョードルについて
「こうしてとつじょ、ロシアじゅうに悲しい名前を知られることになったカラマーゾフ家とは、何でしょう。・・・(父親フョードルは)父親としての精神的な務めなど、あったものではありません。彼はそんなもの見下していました。・・・これが現代の大多数の父親のうちの一人である、などどいったら、社会を侮辱することになるでしょか。」
P522:検事イッポリート-被告人ドミートリーについて
「彼のなかでは、善と悪が、じつにおどろくべきかたちで、混ざりあっております。・・・つまり彼のような人間は、あらゆる両極端をいっしょくたにできるし、ふたつの深みを同時に眺めることができるのです。それはすなわち、頭上にたかだかとひろがる理想の深みであり、眼下におおきく口を開けた、悪臭ふんぷんたる底なしの深みです。」
その後もイッポリートは、料理人スメルジャコフ犯人説を否定しながら、陪審員に訴えかけていきます。
P587:検事イッポリート-結論へ
「みなさんの判決は、ただこの法廷内にのみ響くのではありません、ロシア全土に響きわたるのです。・・・ロシアを苦しめてはいけない、その期待を裏切ってはならない。わたしたちの宿命的なトロイカが全速力で駆けぬけていく先には、もしかすると破滅が待ち受けているかもしれないのです。ロシア全土ではすでに久しく、このくるったような暴走を、止めようと手が差しのべられ、訴えの声があがっています。」
★第4巻第12編10.弁護人の弁論。諸刃の剣 上記検事の弁論に対し、ロシアで有名な弁護人フェチュコーヴィチが弁論する場面。
フェチュコーヴィチは心理学をたくみに用い、ドミートリーの有罪説を懐疑的に見るよう陪審員に訴えかけます。
P635:弁護人フェチュコーヴィチ-
「・・・陪審員のみなさん、どうか誤審に気をつけてください!私がいまお話しし、模写してきたことのどこが、真実らしさを欠いているでしょうか。」
また、フェチュコーヴィチにより独自の父親論が述べられる場面は感動を呼びます。
P641:弁護人フェチュコーヴィチ-父親について
「陪審員のみなさん、父親とは何でしょう、真の父親とは何でしょう。何という偉大な言葉、父親というこの名称のなかに、何と恐ろしくも偉大な思想が含まれていることでしょう。・・・わたしは、ここにいる父親のためだけにいうのではありません。すべての父親にむかって叫ぶのです。『父たる者よ、汝らの子らを、悲しませるな』。」
P652:弁護人フェチュコーヴィチ-父親について
「息子を父親の前に立たせ、わざとこうたずねさせるのです。『父さん、教えてください。どうしてぼくが父さんを愛さなくてはならないのですか?父さん、証明してください。なぜ愛さなくてはいけないのか。』そして、もしその父親がきちんとわかりやすく答えて、証明できたなら、それはほんものの正常な家庭です。」
他にも詳細な弁論が行われますが、最終的にこの第4巻の最後で、ドミートリーの有罪判決が確定し、彼はシベリアへ送致されることになるのです。
前にも書きましたが、ドミートリー裁判の場面は法廷小説としての完成型といえる域にあります。私は実際の裁判をほとんど見たことがありませんが、検事と弁護人がその時代の世相を述べ陪審員に訴えるさまは、実際の裁判に勝るとも劣らない臨場感をもたらしてくれるはずです。
posted by らっかせい at 19:04| 東京

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